小さな頃から親の期待を背に勉強をしてきた
得意な科目は数学と物理
誰が聞いても羨む企業へエンジニアとして入社
安定・人気・高収入・将来性・花形産業
そのすべてをクリアした
いいところから美人な嫁をもらう
期待に応える喜びを噛みしめる
順調に子供にも恵まれ
郊外にマイホームも手に入れた
幸せの形はすべて揃った
それでも日増しに思う
会社ってこんなものなのか
仕事とはこんなものなのか
職場には笑顔がない
隣の同僚とのコミュニケーションもメール
自分の仕事を誰が喜んでくれるのか実感なんてない
何のための人生なのか
人件費が高いがために
サービス残業して遅くまで働かなくては追いつかない
無責任に仕事を投げ出して早く帰る同僚もいる
しかし、自分はそれはできない
仕事はしっかり責任持ってやるものだ
会社を出るのは24時を回る
毎日のように終電だ
マイホームに帰るのは夜中の1時半
それから電子レンジで温めての夕食
朝は7時過ぎには電車に乗る
住宅ローンも四歳の子供も妻も抱える
もちろん責任は自分にある
だけどね
これから三十年も続ける自信がない
日増しにその思いがつのる
妻に心情を伝えた
病院を勧められた
病院では”鬱病”との診断
鬱病になれば仕事を長期休める
毎日仕事を投げ出して5時に帰る同僚と
五十歩百歩かもしれない
この方はたんたんとお話になった
ご自分のことを冷静に説明されどこまでも論理的だった
何が問題なのだろうか
我慢が足らないのか
考え方が間違っているのか
真面目すぎるというのか
理性的に論理的に生きるということは
感情を抑える傾向にある
無意識に抑圧された感情は
なくなったのではなく
抑え込まれているだけ
奥底で騒いでいる
それが不機嫌・嫌悪感・イライラ・自己否定・人嫌い・攻撃性
となって突如湧き上がってくる
無理なプラス思考はいけない
自分の中にあるマイナスの感情を許さないと
受け入れればおとなしくなる
「嫌だ!」「冗談じゃない!」
「期待になんかに応えられるか!」
「押し付けるな!」
「いい子でなんかいられるか!」
「泣きたいよ」「虚しいよ」「辛いよ」
「我慢できないよ」
マイナスを出せば楽になる
いっぱい泣くといい
涙が心の蓋をとってくれる
その奥には穏やかで優しい心が潜んでいる
あたたかくて人に役立ちたい心がそこにある
だから大丈夫
周りは誘導しない
希望を持たない
希望は本人の心の蓋を重くする
仕事復帰なども夢を見ることなく
蓋の奥にある心を信頼する